2016年01月31日

某地下鉄線駅の駅員をやっている

619 :潜水士 ◆MK4bj1r2OY [sage]投稿日:2005/06/04(土) 21:56:16 ID:SRP8lAAN0[1/4回(PC)]
 俺は某地下鉄線駅の駅員をやっている。まだまだ諸先輩方に世話に 
なりっぱなしの新人だ。 
 俺があれを初めて見たのは、2ヶ月前の深夜のことだった。 
 終電を見送った後、ホームを軽く掃除しながら忘れ物や落し物、不審 
物は無いかとホームの様子を窺っていた。 
 すると、階段の昇降口に、ひとりの男が立っていることに気が付いた。 
「もう終電が行ってしまったので、明日の始発まで駅の外で待ってて下さい」 
「すいません、分かっています……」 
 少し離れた所から声をかけたためか、男は俺を一瞥したきり動こうと 
しない。もう一度、今度は近くで説得しようと足を踏み出した時、後ろか 
ら先輩に肩を叩かれた。 
「あの人はいいんだ。覚悟をしているんだろう……」 
 先輩の言っていることの意味を訊ねようとした時、警笛が聞こえてきた。 
ホームから身を乗り出すと、暗闇の向こうから二つの光が近付いて来る 
のが見える。回送電車が来たのかなと思った瞬間、男はあれに飛び込 
むつもりなのかと閃いて慌てた。 
「大丈夫だ、あの人はあれに飛び込むつもりは無いよ」 
 駆け出そうとする俺の肩を、先輩はギュッと掴んで止めた。




620 :潜水士 ◆MK4bj1r2OY [sage]投稿日:2005/06/04(土) 21:57:10 ID:SRP8lAAN0[2/4回(PC)]
「自殺じゃ、ないんですか?」 
「自殺と言えば、ある意味で自殺とも言えるかな?」 
「じゃぁ、とめなきゃ!」 
「……後学のために、黙って見ておけ」 
 先輩が真剣な顔をして、俺をそうなだめる。 
 電車がもう一度、警笛を鳴らす。いよいよホームへ滑り込んできた。 
 俺は悲鳴と言うより、わけのわからない奇声を上げてしまった。 
 ホームに滑り込んできた電車の車体は、全裸の人間たちで出来ていた。 
 全裸の老若男女が虚ろな顔をして、もつれ合って絡み合って電車の 
形をなしている。車体だけではなく、ドアも、車内の床も、椅子も裸の 
人間で出来ていた。 
「な、なんなんですか、これッ?!」 
「俺たちは『肉電車』って、呼んでるよ……」 
 停車すると、4体から成る『人間ドア』が観音開きに開いた。その4人 
は何かに固められたかのようにくっついてピクリとも動かない。 
 男はそれに乗り込み、四つん這いになっている『人間椅子』に腰掛けた。 
 警笛が短く2回鳴ると、ドアが閉まって発車していった。 
「あの人、乗り込んじゃいましたよ」



621 :潜水士 ◆MK4bj1r2OY [sage]投稿日:2005/06/04(土) 21:58:15 ID:SRP8lAAN0[3/4回(PC)]
「それが、あの人の目的だったんだよ」 
「あの人、これからどこへ行くんですか?」 
「……さっさと、残りの仕事を済ませるぞ」 
 先輩はそう言い残して仕事に戻った。俺も仕事に戻るが、『肉電車』の 
ことが気がかりで集中できなかった。 
 詰め所に戻ると、先輩が『肉電車』のことを話してくれた。 
 『肉電車』は、乗車希望の者が終電の過ぎたこの駅のホームに立つと 
やってくるのだと言う。ただ先輩も、何故この駅が乗車駅なのか、乗客を 
どこへ連れて行くのかまではわからなかった。代々の先輩たちから伝わ 
る話では、30年以上も昔から現れているらしい。 
「あの人、どうなってしまうんですか?」 
「……あの人のことは忘れろ。お前とはもう、関係がない」 
 話はそこで打ち切られた。 

 そしてつい先日の深夜。 
 俺は終電を見送った後、軽く掃除をしながらホームの様子を窺っている 
と、階段の昇降口にひとりの女が立っていることに気付いた。俺より年上 
の30代半ば、美人だった。



622 :潜水士 ◆MK4bj1r2OY [sage]投稿日:2005/06/04(土) 22:00:16 ID:SRP8lAAN0[4/4回(PC)]
「もう終電が行ってしまったので、明日の始発まで駅の外で待ってて下さい」 
「すいません、分かっています……」 
「あのぉ、差し出がましいようですが、考え直した方が……」 
 その時、警笛が聞こえてきた。俺は慌ててしまう。 
「あの、あなたほどの美人なら、まだやり直しが効くんじゃないですか?」 
「私にはもう、行くあても帰るあてもありませんから。お心遣い、ありがと 
うございました」 
 『肉電車』がホームに滑り込んで停車すると、ドアが開いた。女は俺に 
一礼して、電車に乗り込む。 
 女が座った『人間椅子』は、2ヶ月前にホームで出会ったあの男だった。 
男は全裸で四つん這いになり、虚ろな顔をして長椅子になりきっていた。 
 『肉電車』に乗り込んだ者は、その車体の一部となるのだ。 
 警笛が短く2回鳴ると、ドアが閉まって発車していった。 
 『肉電車』を次に目撃する時は、あの女が虚ろな顔をして車体の一部 
となっているのだろう…… 
                                       終わり 


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