押し入れの上の方に、小さな扉があったのだ何か変だ

2016年04月10日

今すぐこの家からお逃げ

239 : あなたのうしろに名無しさんが・・・[] : 投稿日:2003/06/28 23:51:00
姉の様子が最近変だ。 
キッチンのテーブルに腰掛け、口をポカーンと開け、 
空ろな目つきで視線を泳がせている。 
以前は風呂場や自分の部屋をうろついていたが、この 
何日かはキッチンにいついている。 

去年母方の祖母が亡くなったが、あの時のことが本当だった 
のだろうか。 
祖母は意識が混濁する前に、僕を枕元に呼び寄せ、確かに言った。 

「あの子(姉)もかわいそうだけど、逆恨みされるおまえも不憫だよ。 




240 : あなたのうしろに名無しさんが・・・[] : 投稿日:2003/06/28 23:52:00
おばあちゃんが一緒に連れて行くから、それまで辛抱してな」 

姉と僕は異父姉弟だった。 
四つ年下の僕は両親から可愛がられたが、姉はそうじゃなかったの 
だろうか。 
十代後半には家を出て男と暮らし始めたが、両親は真剣に将来を考え、 
必死に引き止めた。 
高校も中退し、警察から補導されるまで荒れていた姉は、両親に反抗し 
て聞く耳を持たなかったというのが事実だと思う。 

その姉が再びうちに戻ってきたのは、自身の葬儀のときだった。 
深夜に同乗していた男の車が交通事故を起こし、即死だった。 
お通夜が終わり、弔客がすべて引き上げ、家族だけで過ごした夜 
のことを、僕は忘れられない。 



241 : あなたのうしろに名無しさんが・・・[] : 投稿日:2003/06/28 23:52:00
真夜中、客間の六畳で誰かの声がした。 
僕は疲れきって寝ている両親をそのままにして、一人で部屋へ行った。 
そこには、姉がドライアイス入りのお棺に安置されている。 
怖くはなかった。 
十年以上一緒に暮らして、家族仲の良い時期もあった。 
姉は中学に入った頃くらいから僕と口を聞かなくなったが、 
激しく反抗したのは母親だった。 
僕は姉のことが嫌いじゃなかった。 
憧れみたいなものもあったような気がする。 

僕は好きだった姉に、最後の挨拶をしておこうと思った。 
姉は事故の際ひどい怪我を負い、顔半分に包帯が巻かれていた。 
それでも奇跡的に、右半分はかすり傷ひとつなかった。 



242 : あなたのうしろに名無しさんが・・・[] : 投稿日:2003/06/28 23:53:00
お棺の開き扉をそっとあけ、昔の面影が脳裏によみがえろうと 
する刹那、信じられないことが起こった。 

姉の閉じられた瞼が、ぱっちりと開いた。 
白濁した瞳がゆっくりと僕を捉え、口角が震えている。 

僕は思わず顔を横にして、聞き耳を立てた。 
姉が生きている。その奇跡を確かめたかったからだ。 

「おまえも連れて行く」 
呪詛の言葉が姉の口から漏れた。 
僕は驚いて後ずさりし、少し離れた所から姉を見つめた。 

姉は目を閉じたままだった。 

僕は両親が寝ている部屋に戻り、がたがたと震えていた。 
明け方になって気持ちが落ち着き、幻覚を見たのだと思った。 



243 : あなたのうしろに名無しさんが・・・[] : 投稿日:2003/06/28 23:53:00
今では、それが幻覚じゃなかったことが分かっている。 
姉は僕の前に時々現れ、にらみつけることもあるし、悲しげに 
見つめることもある。 
僕に何かを言いたいのだろうが、声をかけられないようだ。 
それでも、姉は僕に会いたがっているような気がしていた。 

・・・・その姉が最近変だ。 
やはり祖母が連れて行こうとしているのだろうか。 

姉の姿がフェイドアウトするのを確認して、僕は真夜中のキッチン 
から立ち去ろうとした。 
イスをテーブルに戻して振り返ると、そこに祖母がいた。 

「今すぐこの家からお逃げ」 



244 : あなたのうしろに名無しさんが・・・[] : 投稿日:2003/06/28 23:58:00
祖母は僕にそう言った。 
「あの子はおまえを連れてくつもりだよ」 

僕は一瞬のうちにパニックに陥った。祖母はまるで生きている 
かのようだった。 
「全部あの子の父親が悪いんだ」 
父親・・・?つまり僕の母親の元夫に当たる人のことか? 
「あの男が血筋を絶やそうとしている」 

僕は夢を見ているような気がして目を閉じた。 
頭を振って再び目を開くと、なぜか母親が立っている。 
夢遊病者のようにふらふらと体を揺らしながら、僕の方に近寄ってきた。 
そして、突然こちらをカッと睨み付けたかと思うと、 
男の低い声で語りかけてきた。 

「一緒に死ぬんだよ」 
母親の手には包丁が握られていた。 


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押し入れの上の方に、小さな扉があったのだ何か変だ