グチャグチャ今まで機械の留守電のメッセージだったのに

2016年05月10日

全てが夢だったのか?

398 : 扉 ◆RrDVPHGxho [] : 投稿日:2003/06/04 13:46:00
深夜。就寝中。 

当時、1Kの部屋に住んでいた俺は、ベッドを窓際に置いていた。 
ベッドの頭の位置からは、キッチンの廊下越しに玄関が見える。 
その廊下と部屋をしきる、磨りガラスが真ん中に付いたドアが一つ。 
そんな部屋構成だった。 

どうしても、部屋を真っ暗にしてからでないと寝られない俺は、 
暗闇の中で、ふと自分の躰が動かなくなっていることに気付いた。 
(やばいなぁ・・・金縛りかなぁ・・・) 
霊に対する「居る」「居ない」という議論に中立を守る俺は、 
結構冷静に自分の状態を分析していた。 

天井に向かって仰向けのまま、全身が動かなくなっている。 
意識はあるのだが、四肢すら動かすことが出来ない。 
動かしたくても動かせないのは、長時間の正座で足が痺れてしまうのに似ていた。 
それがずっと全身に渡って続く感じ。 
その金縛りの中、(どうしようかなぁ・・・これから)などと呑気に考えていると、 
気付いたことが一つ。 

廊下のドアの外に、誰かが居る。 

ジッと息を殺して、ロングコートで顔の見えない女が廊下に立っている。 

何故か、扉の向こうに立っている筈なのに、容姿までが分かってしまっている。 
それに、どうして女性だと判断できたのか? 
そして。 
部屋の電気は消えているので、女どころか、自分の部屋の壁すら見えない筈だ。 
未だに分からないが、その時は瞬時にして理解していた。 
女が立っている。 




399 : 扉 ◆RrDVPHGxho [] : 投稿日:2003/06/04 13:47:00
相変わらず躰は動かない。 
女がドアの外に居ることの恐怖感よりも、この状況に変化が起きないことの方が怖かった。 
おそらく、あの磨りガラスには姿らしき影が映っているはずだ。 
微妙に揺れながら。 
こちらへ入ってこようとしているのか。 
それとも、別の意志か。 

変化の起きない状況に、自分の精神が圧迫され、心臓の鼓動がゆっくりと高まっていくのに気付く。 
荒い息づかい。 
その呼吸は、果たして自分のモノか、女のモノか。 
耳の内側に、最大の音量で迫ってきた自分の心臓の鼓動が、ピークに達したとき。 

自分のベッドの上で上半身を起こして目が覚めた。 

耳の中の鼓動が、徐々に小さくなっていく。 
呼吸が荒い。寝汗が酷い。全身がビッショリだ。着替えたい。 
相変わらず暗闇だ。女の気配はない。この部屋には一人だ。 
「夢か・・・」 
声に出して言ったのは、そうであって欲しかったからという希望と、 
現実に帰ってきたことを実感したかったから。 
いつものように慣れた手で蛍光灯の紐を引き、明かりを付ける。 
磨りガラスには何も写っていない。 
ホッとしている自分を感じながら、来ていたTシャツを脱ぎ、再び布団の中へと戻る。 
今度は、(夢と思っても)恐怖から部屋の明かりは消さず、そのまま寝ることに。 
・・・消しておけばよかった・・・。 



400 : 扉 ◆RrDVPHGxho [] : 投稿日:2003/06/04 13:47:00
心地よい眠りと共にやってくる休息に、精神も和らぎかけた頃。 
ゆっくりと、しかし確実に寄ってくる。「波」がジワジワと俺の周りを囲むように。 
俺の周りの空気だけ、一瞬にして凝縮したかと思うと、一気に迫ってきた。 
再びウトウトしてきた俺は、またしても金縛りにあったのだ。 
(また夢なのか?!) 
叫びたいのに叫ぶことも出来ず、躰を捩らせることすら出来無い事に苛立ち、 
時間を置かずにパニックになっていく。 
すると、部屋の以上に突然気付いた。 

まただ。 
居る。 

顔を横に向けることが出来ない。でも、「居る」のは分かる。 
しかも。 

今度は、ドアがほんの少しだけ開いている。 



401 : 扉 ◆RrDVPHGxho [] : 投稿日:2003/06/04 13:48:00
(マズイ!ヤバイよ!) 
叫びたい。助けを呼びたい。必死になろうとすればするほど、躰が動かない。 
精神は揺れているのに、客観的に見たら、全くの「静」。 
俺は動かない。部屋の中でも動くモノはない。 

ただ、ドアが開いているだけだ。 
ほんの少し。 

涙が流れているのを感じた。鼻水も垂れている。涎も流れているようだ。でも、声は出せない。 
そして。 
居るんだ。そこに。ドアの向こうに。明かりを付けたから、今度は分かる。 
磨りガラスの向こうで、ゆっくりと何かが揺れている。 
精神が膨張に増す膨張をし、破裂しそうになったとき。 

目が覚めた。 

涙と鼻水と涎でグシャグシャになった俺は、明かりの点いた部屋を見る。 
ドアは開いていない。 
磨りガラスにも何も写っていない。 
(もういやだ!もういやだ!) 
部屋を出て行こうとした時、自分の躰に起きた異常に、精神が凍り付く。 

躰が動かない。 

気付いたら、寝ていた。 



402 : 扉 ◆RrDVPHGxho [] : 投稿日:2003/06/04 13:49:00
部屋にいた。明かりの点いた部屋で、俺は寝ている。 
ドアの外にいる。女が。 
今度は、さっき開いていたドアが、更に少し開いている。 

目が覚めた。 
ドアは開いていない。 
女もいない。 

それが何度も繰り返され、夢なのか現実なのか区別も付かないまま、 
とうとうドアは全開になった。 
居る。 
もう見える。 
部屋の中に入らず、ジッと俺のことを見ているように立ち尽くしている女が。 
くすんだオレンジ色のロングコート。 
目深に立てた襟のせいで、顔が見えない。 
何故か、女の全身はまるで豪雨の中を歩いてきたかのように、びしょ濡れだ。 
廊下に水が滴っている。 
その水滴は玄関から続いているようだった。 
玄関の鍵はかかっている。 
なのに、どうして玄関から水滴が続いているのか? 



403 : 扉 ◆RrDVPHGxho [] : 投稿日:2003/06/04 13:49:00
恐ろしい考えに辿り着く前に、目が覚めた。 
女は居ない。 
ドアも閉まっている。 
でも、躰がまだ動かない。 

気付いたら部屋だ。 
また俺は寝ている。 
女が居る。 

大声を上げたかった。でも声は出せない。 
恐ろしい事が起きていた。 

女が、ほんの少し、部屋の中に入ってきていて、立ち尽くしていたのだ。 
じっと動かない。 
垂れている水滴も、部屋の中まで来ている。 

覚悟した。 
恐らく、夢と現実を繰り返しながら、女は近寄ってくるのだろう。 
俺の側まで。 
推測は当たり、徐々に女は近づいてきていた。 
動くのは躰から垂れる水滴ばかり。 
手足も一切動かないのに、夢と現実を行き来しながら、女は近づいてくる。 
俺の精神は発狂寸前だった。 
目が覚めればドアは閉じていて、誰も居ない。 
気が付けば、ドアは開いて女が居る。 
それの繰り返し。 
しかし、無限の繰り返しではなさそうだ。 
何故なら、近づいてきているからだ。俺の側に。 



404 : 扉 ◆RrDVPHGxho [] : 投稿日:2003/06/04 13:49:00
そしてとうとう、女は俺のベッドの側まで来ていた。 
俺を見下ろしているのだろうが、顔がよく見えない。呼吸をしているのかすら分からない。 

俺の精神はその時、何故か落ち着いていた。 
極限に迫った状態がなせる、精神の自己防衛本能だと思う。 
(好きなようにしろよ・・・) 
変に覚悟を決めていた俺は、何が起きても怖くなかった。 
「さぁ殺せ」くらいの勢いだったと思う。 

女の顔は見えない。 
しかし、俺を見つめている気がする。 
滴る水滴。 
静かな衝撃が俺を襲った。 
今の状況が夢なのか現実なのか判断できない俺にとって、もうどうでもいい衝撃だった。 

目が覚めた。 

部屋の明かりは「消えて」いた。 
Tシャツも「着て」いた。 



405 : 扉 ◆RrDVPHGxho [] : 投稿日:2003/06/04 13:50:00
・・・。 
・・・・・・・。 
全てが夢だったのか? 
・・・。 
・・・。 
・・・・・・・!! 
躰も動く! 

急いで上半身を起こした。全身に疲れが襲ってきた。大量の汗が噴き出す。 
状況を認識するまで、息を止めていた自分に気付き、咽せ返しながら酸素を貪った。 
徐々に呼吸も落ち着いてくる。 
部屋の照明を「また」点け、ドアを見る。 
やっぱり開いていない。 
「夢だよ。・・・夢」 
現実をたっぷりと味わうように、わざと大きめの声で言った。 
汗で濡れたTシャツを「再び」脱ぎ捨て、ベッドの下に放る。ベチャッという音と共に、床に張り付いた。 
深呼吸をして、さぁ、寝るかと心を安らかにして。 

・・・うふふ。 



406 : 扉 ◆RrDVPHGxho [] : 投稿日:2003/06/04 13:51:00
瞬時にして走る背筋の悪寒。 
誰だ。 

俺 の 頭 の 上 で く ぐ も っ た 笑 い 方 を す る の は 誰 だ ? 

天井を見上げた俺は、恐らく一生涯忘れることの出来ない女の目と遭遇する。 
あのロングコートの女は、居たのだ。まだ。 

天 井 に 膝 を 抱 え た 体 勢 で 張 り 付 き 、 

俺 を ず っ と 見 下 ろ し て い た の だ 。 

凍り付いた。全てが。 
終わった。全てが終わった。 
そう思ったとき、確かに女の口は耳端まで裂けた。笑ったのだ。 
そして、膝を抱えていた両手を拡げ、全身を大の字に開いて、俺の上に 

落 ち て き た 。 

早朝。目覚めの時。 
冷えた空気が窓の隙間から流れ込み、そろそろ秋を迎えると感じさせる温度。 
降ってきた女に精神が耐えきれず、気を失ったらしい。 
しかし、何も起きていなかったようだ。 
ドアは閉まっているし、照明も寝る前に消したままだ。 
汗で濡れたTシャツだけは、寝ている間に脱いだのだろう、床に放ってある。 



407 : 扉 ◆RrDVPHGxho [] : 投稿日:2003/06/04 13:52:00
何が何だか分からない俺は、混乱しながらも今の時間を時計で確認し、 
ゆっくりと起こした上半身を捻りながら、異常がないことを確認する。 
たっぷりと二分は見回した後、安堵のため息をついた。 
なんだったんだ、いったい・・・。 
何もかもが分からないことだらけ。それでも、朝を迎えることが出来た。 
・・・夢として割り切ったほうが良いんだろうと、本能は伝えていた。 
そして、カラカラに乾いた喉を潤すため、ベッドの中から出ようと布団を掴んだときだった。 

初めて、大声で叫んだ。 
何故なら。 

布 団 の 上 に 、 両 手 両 足 を 拡 げ た 形 の 
人 型 の 「 くぼみ 」 が 出 来 て い た か ら だ っ た 。 




終了。 



このエントリーをはてなブックマークに追加
at 11:00│Comments(0)心霊 

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
グチャグチャ今まで機械の留守電のメッセージだったのに