『 電源 』黒いゴム片

2016年08月24日

二人して崖下へと転がり落ちたのだ

36 : 虚の中の男 ◆AFcPKj5UhQ [sage] 投稿日:2006/12/02(土) 03:43:13 ID:cjq37k0Z0 [1/4回(PC)]
十数年ほど前のある夜、飲み友達であるAとBは、車で近隣の里山へ入った。 
近年のペットブームで、カブトムシやクワガタの需要が増え、 
とある店で高く買い取って貰えると聞き、小遣い稼ぎに虫取りに行ったのだった。 
昼の間に下見をしておき、虫が寄ってきそうな木に罠を仕掛けて、夜を待つ。 
簡単なものだった。慣れぬ山だったが、一晩で数十匹の甲虫が取れた。 
これでちょっとした飲み代になるだろうと、心が弾んだ。 

しかし、その目論見は無残にも打ち砕かれた。Aはもっと獲物を得ようと、 
爪先立ちで高い枝に手を伸ばしたが、次の瞬間、にじみ出る草の汁で足を滑らせ、 
咄嗟に掴んだBを巻き添えにし、二人して崖下へと転がり落ちたのだ。 

幸いにもBは無傷だった。Aも足を捻った程度で済んだが、自ら歩く事は出来なかった。 
助けを呼ぼうにも、ここから上には戻れそうになく、他の道を探す事にした。 
BはAを背にし、崖下の小道を歩きだした。昼間に下見をしていたとは言え、 
その道はどこへ通じているのか、さっぱり分からぬものだった。 
不安がよぎる中、車を止めた上の道がどんどん遠ざかっていくような気がした。 

付近には民家どころか街灯すら無い。懐中電灯の明かりを頼りに歩き続ける。 
Bの背中は汗でグッショリ濡れていた。背負っているAの体が、直に張り付いてるようで、 
気持ちが悪くてしょうがなかったが、口には出さなかった。 
数十分歩き続けた頃、遠くに「ぽっ」と灯りが見えた。二人の男は安堵した。 
この先に家があるのだろう。電話を借りて助けを呼ぼうと、そこへ向かった。 

どこからか、「ワゥ ワゥ ワゥ ワゥ…」と犬の鳴き声が聞こえる。 
おそらく、お目当ての民家からであろう。 
山の一軒家は物騒だから、番犬を飼っていても不思議ではない。 
歓迎されてはいないようだが、家の人が早くこちらに気づいてくれれば幸いだ。 
灯りが少し近づいてきた。二階の窓らしき灯りだった。中には人影が見えた。(続)




37 : 虚の中の男 ◆AFcPKj5UhQ [sage] 投稿日:2006/12/02(土) 03:44:41 ID:cjq37k0Z0 [2/4回(PC)]
曲がりくねった道だったので、灯りは時折り木々に隠れ見えなくなったが、 
犬の鳴き声を頼りに、灯りの方へと着実に歩みを進めた。 
「ワゥ! ワゥ! ワゥ! ワゥ!」鳴き声が大きくなってくる。 
「もう、すぐそこだろう。」Bが道を曲がった。 

しかし、おかしな事に民家など見当たらない。そろそろ家が見えてもいいはずなのに。 
そう疑問に思いつつ、Aがひょいっと首を曲げた瞬間、宙にタテ長の細い光が見えた。 
Bが前へ進むと、細い光は徐々に形を変え、長方形の光になった。 
二人はギョッとした。家は無い。が、灯りのついた窓だけが宙に浮かんでいるのだ。 
窓には人影が見える。女だ。裸のようだったが、そんな事はどうでも良かった。 
女はこっちをジッと見据えている。二人はその場から動けなかった。 

しばらく緊迫した間があり、やがて、女は窓をガラリと開けたかと思うと、 
「ワゥ!! ワゥ!! ワゥ!! ワゥ!!」と犬の声で吠えた。 
二人は、女から目を反らす事が出来ぬまま、その場にへたりこんでしまった。 
しかし、Bはすぐに起き上がると、絶叫しながら一目散に逃げ出した。 
歩けぬAを置き去りにしたまま。 
逃げるBの背後からは、犬の鳴き声が延々とこだまし続けた…… 


山を下りたBは、警察へと駆け込み、事の経緯を話した。 
捜索隊が出されたが、その甲斐も虚しく、Aは遺体で発見された。 
当初、警察はBが殺害に関与したのではないかと疑ったが、その疑いはすぐに晴れた。 
その理由は詳しくは伝わっていないが、遺体は激しく損壊していたそうで、 
死因は大型肉食獣による被害によるものとして処理されたという。 

それからのBは、暗がりに浮かぶ光や、犬の鳴き声にひどく怯えるようになり、 
ついには、満月の晩に「月の中の女が吠えるので」といった書置きを遺し、消息を絶った。 
彼は今でも鳴き声を背に、逃げ続けているのだろうか。(終)


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at 13:00│Comments(0)心霊 

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