実は雑木林の首吊りは・・・あらゆる厄を背負い込んだ不運な小僧っ子がいた

2016年08月25日

ドス黒いもの

88 : 虚の中の男 ◆AFcPKj5UhQ [sage] 投稿日:2006/12/04(月) 04:25:52 ID:vAeYOoMR0 [1/4回(PC)]
売れない絵描きであるY氏は、煮詰まった仕事の疲れを癒そうと、ある山中に分け入った。 
しかし、山の奥深くで道に迷ってしまった。空腹で動けない。 
もうダメだ、と諦めかけたその時、森の奥から食べ物の匂いがしてきた。 
鼻から脳に染み渡る命の息吹の香しさ。Y氏の脚に力がみなぎってきた。 

森を抜けると、そこには集落があった。 
集落では、住人たちが腕によりをかけた料理を振る舞い、皆で舌鼓を打っていた。 
住人たちは暖かく迎え入れてくれ、Y氏も馳走にあずからせてもらう事が出来た。 

こんな山奥の小さな集落だというのに、豊富な食材に事欠かないらしく、 
食卓の上には色とりどりの皿が並び、五感を潤してくれた。 
子供たちは笑顔で食べ物を頬張り、放し飼いにされている動物たちも、その恩恵を受けていた。 
また、この集落には貨幣というものが存在しなかったが、 
各住人がそれぞれ得意の献立を持っており、料理を作っては他の住人にも振舞っていたので、 
明日の糧の心配をする事なく、難無く食にありつけた。まさに、理想郷であった。 

Y氏はそんな集落がすっかり気に入り、帰るのも忘れ居ついてしまった。 
自身も山へ山菜や茸を取りに行っては、料理の腕を振るい、皆にも食べてもらっていた。 
だが、そんな夢のような生活は長くは続かなかった。(続)




89 : 虚の中の男 ◆AFcPKj5UhQ [sage] 投稿日:2006/12/04(月) 04:27:06 ID:vAeYOoMR0 [2/4回(PC)]
ある日、Y氏はいつものように周辺の山へと山菜採りに行った。 
しかし、足を滑らせ崖下へと落ちてしまった。足を挫いてどうにも動けない。 
そこへ運良く人が通りがかった。集落で見た事がある顔だ。 

饅頭作りが得意な老人の息子であった。知らぬ顔という訳ではないが、 
人里離れた山中で見るその男の姿は、やはり異様な姿をしていると思った。 
男は父親似で、頬がツヤツヤと照り返り、ふくよかで温和な顔立ちだった。 
だが、頭がすっかり禿げ上がり、少年のような声も相まって、至極奇妙に見えた。 

「大丈夫ですか?」と、男が駆け寄る。こちらを心底気遣う声に、 
Y氏は要らぬ考えが生じた自分を恥じた。ぐぅ、と不意にY氏の腹が鳴った。 
「お腹が空いているのですね?」と言うと、男はとんでもない事をし始めた。 
男は自らの顔の肉をつかんだかと思うと、それを引き千切り、Y氏へと差し出した。 
「これを食べて、元気を出して下さい。」男が脂ぎった笑顔で迫る。 
肉を引き千切った男の顔からは、ドス黒いものが覗いていた。Y氏は戦慄した。 

すると、何処からか黒い鬼が現れ、男に戦いを挑み、そして水をかけた。 
男の顔は見る見るうちに、ただれてしまい、ぱったりと倒れ動かなくなってしまった。 
だが、しばらくして、犬を連れた面長の女が現れ、溶けた男の顔を真新しい顔へと付け替えた。 
新しい顔の男は、黒鬼を握り拳で打ちのめし、山の向こうへと消し去った。 
その光景を目の当たりにしたY氏は、足の痛みも忘れ、山を逃げるように駆け下りた。 


その後、Y氏は遅咲きながら仕事にも恵まれ、悠々自適の生活を送った。 
だが時折り、あの男の顔が脳裏に浮かび、捨てられた古い方の顔が 
今でも森を彷徨っているのではないかと思うと、怖ろしさで筆が止まるのだという。(終)


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at 19:00│Comments(0)心霊 

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実は雑木林の首吊りは・・・あらゆる厄を背負い込んだ不運な小僧っ子がいた